労働者派遣法とは?
ここでは、人材派遣制度に関する法律として最も重要な「労働者派遣法」について、その概要や現在の内容などを解説します。
労働者派遣法は派遣労働者の権利を守るための法律
1986年に制定された労働者派遣法(通称:派遣法)は、日本における「人材派遣」というシステムを始めて正式に定めた法律です。 労働者派遣法の施行以前にも、人材派遣と同様のサービスは存在しましたが、それらはあくまでも「業務請負」という建前で運営されていました。
最初に人材派遣が認められていた事業は13業務のみ
労働者派遣法によって最初に人材派遣が認められた職種は、13の業務に限定されており、まだまだ一部の業界でのみ利用される制度でした。
しかし、景気が低迷するにつれて非正規雇用や派遣労働者に対するニーズが高まり、1996年に対象業務が26業務まで拡大されました。また、1999年の小渕内閣において、一部の禁止対象を除いて、広範囲の職種で派遣労働者の使用が認められるようになり、人材派遣が原則自由化となりました。
改正を重ねて誕生した労働者派遣法改正法
人材派遣が原則自由化された後も、労働者派遣法は何度も改正が重ねられることになります。そして2012年10月1日、従来の改正よりもさらに大きく内容が変更された、「労働者派遣法改正法」が施行されました。
2012年の改正点は、主に派遣労働者の権利の拡充です。例えば、派遣労働者への賃金を決める際、労働者の能力や経歴だけでなく、さらに派遣先企業で同一業務に携わる社員らの能力水準や待遇なども考慮されるようになったことも、改正点の1つです。また、派遣労働者への待遇説明が義務化されたり、30日以内の日雇い派遣が原則禁止されたりと、労働者の権利と待遇を守るための取り組みが盛り込まれました。
そして、2015年には再び大きな法改正が行われ、労働者が同一組織で派遣として働ける期間が原則3年になったり、人材派遣事業が許可制のみに一本化されたりと、人材派遣業界にも大きな変革をもたらしました。
人材派遣事業の許可制と届出制
2015年の派遣法改正における大きなポイントの1つが、人材派遣事業の許可制への一本化です。
改正以前の人材派遣制度では、労働者が派遣会社と雇用契約を結んだ上で、派遣先企業で一定期間を派遣労働者として従事する一般派遣(登録型派遣)と、労働者が派遣会社に正社員として雇用された上で、各企業へ派遣される特定派遣(常用型派遣)の2パターンが存在していました。
そして、一般労働者派遣事業は一定基準をクリアした事業者のみが行える許可制でしたが、特定派遣事業に関しては所定の届け出をするだけで事業を行うことが可能でした。
しかし、法改正によって人材派遣事業が全て許可制になったことで、派遣事業者は改めて業務の健全化や派遣法の遵守が必要となったのです。
労働者派遣法は今後も改正されていく見込み
労働者派遣法は、時代の流れや人々の働き方などに合わせて常に見直しが議論されており、今後も改正が見込まれています。
例えば、政府の「働き方改革」に関連して、2021年4月までに国内の全企業に対して「同一労働同一賃金」が導入されますが、2020年にはそれに先駆けて改めて労働者派遣法が改正されます。
派遣法改正は、派遣労働者の待遇や利用法についてダイレクトに影響を及ぼすため、派遣先企業も派遣元へ任せきりにせず、常にアンテナを張っておくことが大切です。
2015年改定・派遣法5つのポイント
1.すべての労働者派遣事業を許可制に
改正労働者派遣法の目玉の一つは、一般労働者派遣事業と特定労働者派遣事業の区分がなくなって1つに統合され、それまでずっと「届出制」だった労働者派遣事業が、すべて「許可制」になったことです。
これにより全ての派遣事業者は、労働者派遣事業の許可基準をクリアしない限り、事業が継続できないことになります。この意味で、改正労働者派遣法は事業者にとっては規制緩和ではなく規制強化されることになりました。
そして、これまで製造業やIT企業を派遣先の対象としてきて特定労働者派遣事業は、一般労働者派遣に吸収統合されます。
2.派遣期間の上限を3年に
派遣スタッフとして同一事業所で働ける期間、派遣先事業者が派遣スタッフを受け入れることのできる期間制限が設けられたこと、これも改正労働者派遣法の特徴です。
従来は、派遣労働における期間制限は設けられていませんでしたが、改正により、派遣スタッフは同一事業所で3年以上働けない、派遣先事業者は同一事業所で3年以上受け入れてはならない、という3年ルールが設けられました。
ただし、派遣スタッフは派遣先企業を移ったり部署を移動することで、3年以上同じ会社で働くことが可能です。
また派遣先事業者の場合も、労働組合で過半数が許可した場合にのみ期間を延長することができます。
3.派遣労働者・派遣先の労働者の待遇を均衡に近づける
従来、派遣労働者と派遣先社員の間には待遇面で格差がありましたが、労働者派遣法の改正により、この格差を是正するための配慮義務と努力義務が派遣先に対して定められました。これにより、派遣先事業者は待遇面での差別ができなくなり、派遣就業の確保を目指して適正な対応をとらなければなりません。
具体的には給与の問題だけでなく、教育訓練・能力開発配慮義務、福利厚生施設の利用機会配慮義務、資金情報提供配慮義務、派遣労働者の職務遂行状況等の情報、といった取り組みが求められます。
4.派遣労働者の雇用安定保証
労働者派遣法の改正では、雇用安定保証という措置についても内容に盛り込まれました。これはどういうものかというと、文字通り派遣社員の雇用を安定化するために、派遣元事業主はしかるべき措置をとらなければならないということです。
改正労働者派遣法には、派遣スタッフが同一事業所で3年以上働けない3年ルールがありますが、派遣スタッフがその上限を超えて働くことを希望した場合、派遣元事業主は次のような措置を講じなければなりません。
- 派遣先に対して派遣スタッフの直接雇用を依頼すること
- 派遣スタッフに新たな派遣先を紹介すること
- 派遣事業主側で派遣スタッフを無期雇用すること
- 有給で教育訓練の機会を提供すること
派遣労働者側からするとこの雇用安定保証は、3年ルールの不安を補うものといえるでしょう。
5.派遣労働者のキャリアアップを推進
改正労働者派遣法では、派遣元・派遣先双方に派遣労働者に対するキャリアアップ推進のための支援を行うことも義務づけられました。これは従来、派遣労働者と派遣先正社員の間に存在したキャリアアップにおける機会格差を解消するためのものです。
改正により派遣元と派遣先は、日々の雇用契約や業務を指示するだけでなく、本人のキャリアアップに資する内容の教育訓練を施したり、情報提供やアドバイスを受けられるキャリアコンサルティングの提供などを行わなければなりません。
派遣先が覚えておくべき4つのポイント
1.離職後1年以内の人を元の勤務先に派遣してはならない
2015年に改正された労働者派遣法は、当該派遣先における、離職後1年以内の労働者派遣を禁止しています。従って、派遣先事業者が同一事業所を離職した労働者を再度受け入れる場合、離職後1年を経過するまで待たなければなりません。
起算日は離職した日であり、その日から1年を計算します。そしてこの改正の特徴は派遣元事業主にも適用されていることで、派遣元事業主による離職後1年以内の労働者の当該派遣先への派遣も禁止されています。
2.派遣先都合の契約中途解除に講じるべき措置
派遣先都合により派遣雇用契約を中途解除する場合の措置についても、改正労働者派遣法は定めています。
派遣先においては、
- 中途解除する際の派遣元に対する事前申し入れと合意を得ること
- 派遣先での新たな就業機会を提供できるよう尽力すること
- 派遣労働者に対する賃金補償を目的とした損害賠償を派遣元に行うこと
- 中途解除した理由について派遣元から請求があった場合、情報を明示すること
派遣先の都合で「個別派遣契約」を中途解除する場合は、こうした措置を講じなければならないことを認識しておきましょう。
3.派遣労働者・派遣会社に対する配慮義務
改正派遣法は、派遣労働者と派遣先正社員の均衡待遇推進を目的に、次のような措置をとることを派遣先に義務付けています。
- 派遣元から請求があった場合に必要な情報を提供すること
- 賃金水準の情報提供を適正に行うこと
- 派遣元から求めがあった場合に派遣労働者にも教育訓練を実施すること
- 福利厚生施設について派遣労働者にも利用の機会を与えること
- 派遣料金の額の決定に際し、同種の業務に従事する派遣先正規雇用者と均衡するよう適正に派遣料金の額を決定すること
全ての労働者の待遇の均衡を図るのが主眼にあることを覚えておきましょう。
4.労働契約申込みなし制度
労働者派遣法では、労働契約申込みみなし制度も、平成27年10月1日から施行されています。これは派遣先事業者が違法派遣と知りながら派遣労働者を受け入れた場合、違法状態が発生した時点より、当該派遣労働者に対して直接雇用の申込みを行ったとみなされる制度のことです。
この制度が適用されると、派遣先は仮に申し込みの実体がなくても、法的には派遣労働者に対して労働契約の申込みをしたことになります。そして労働契約の申込みをした以上、派遣労働者の派遣元における労働条件と同一の労働条件で雇用する義務が生じます。
[ad]